制度対応が積み重なるとき、経理の「間に合う」は何で決まるのでしょうか
月末の数日間、経理担当者の机の上には締め処理の書類が積み上がります。そこに制度対応の資料が加わり、「これも確認しなければ」という案件がさらに挟まる。この光景は、多くの中小企業でごく普通のことになっています。
インボイス制度が2023年10月に始まり、電子帳簿保存法の猶予期間が2023年末をもって終了しました。2024年1月からは、電子取引データの保存が完全義務となっています(1)。以前であれば「まだ準備中」という言い訳が通じる余地がありましたが、今はそれができません。正確に、かつ期限どおりに対応することが、経理担当者に求められるようになっています。
問題は「制度を理解しているかどうか」ではなく、「それを毎月の業務の中でどう回せるか」にあります。
■ 制度対応が「負担」になる本当の理由
電子取引データの保存義務とは、要するに「メールやクラウド上でやりとりした請求書・領収書などは、紙に印刷せずそのままデータで保管しなければならない」ということです。加えて、改ざん防止の措置と日付・金額・取引先による検索ができる状態を保つことが求められます(2)。
聞けば単純に見えます。しかし実際の現場では、請求書がPDFでメールに届くものもあれば、クラウドサービスからダウンロードするものもあり、紙で届くものも混在しています。それぞれ対応が異なるのに、処理する人間は同じです。月次の締め処理と並行してこれをこなすのは、想像以上に体力のいる作業です。
経理業務における課題として「業務の効率化・時間短縮」を挙げる企業は約40%にのぼります。制度対応そのものが直接の原因ではなくても、業務量の増加がこのような感覚を生んでいることは間違いありません。
■ 「間に合う」を支える仕組みをどこに置くか
制度対応で経理が疲弊するのは、人の判断を必要としない作業に人の時間が使われ続けているからです。裏返せば、自動化・システム化の余地は必ずそこにあります。
まず注目したいのは、受領した電子データの分類と保存です。取引先から届くデータを一定のルールで自動的に仕分け、指定のフォルダに格納する仕組みを作るだけでも、月次の処理時間は変わります。会計ソフトや経費精算ツールの多くが、この機能を標準で持つようになっています。
次に、インボイスの登録番号照合です。仕入税額控除を受けるためには、取引先が適格請求書発行事業者として登録されているかどうかを確認する必要があります。これを手作業で都度確認している企業は、今すぐシステムに任せる方法を探す価値があります。国税庁の公表登録番号データベースとの連携機能を持つツールも増えており、照合漏れのリスクを大幅に減らせます(2)。
なお、税込1万円未満の課税仕入れについては、インボイスの保存なしでも帳簿の記載のみで仕入税額控除が認められる少額特例があります(3)。この制度を知らないまま全件をインボイス保存の対象として処理している場合、作業量を減らせる可能性があります。
■ 「正確さ」より先に「間に合わせる」ための設計を
経理の仕事には「正確さが最優先」という信念があります。それは正しいことです。ただし、間に合わなければ正確さの意味がないという側面も、現場をよく知る人ほど理解しています。
大切なのは、人の判断が必要なところに人の時間を集中させることです。入力・照合・保存・検索 ー これらはシステムに委ねられます。異常値の確認、取引先との調整、税理士への相談内容の整理 ー これらは人でなければできません。
制度対応が毎年のように変わる以上、「都度対応する体制」では遅れが生じます。変化を吸収できる仕組みの上に経理業務を乗せておくことが、これからの中小企業の経理に求められる設計です。今が、その見直しを始めるちょうどいい時期です。
参考・出典
(1) 財務省「令和6年1月スタート 電子帳簿等保存制度の内容と中小企業の対応策」 https://www.mof.go.jp/public_relations/finance/202408/202408c.html
(2) 国税庁「電子帳簿等保存制度特設サイト」 https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/sonota/jirei/tokusetsu/index.htm
(3) 国税庁「少額特例(一定規模以下の事業者に対する事務負担の軽減措置)の概要」 https://www.nta.go.jp/publication/pamph/shohi/kaisei/202304/02.htm