受注・在庫・請求 ー 三つの情報がつながらないとき、何が起きていますか?

受注・在庫・請求 ー 三つの情報がつながらないとき、何が起きていますか?
朝、メールを開くと得意先から「昨日の注文、在庫ありますか?」と問い合わせが入っている。

倉庫に確認し、在庫表を開き、別のファイルで出荷状況を調べる。返答するまでに30分かかることもあります。この30分の間に、同じ商品を別の営業担当が別の得意先に引き当ててしまう ー そんな経験をお持ちの方は少なくないのではないでしょうか。

卸売業の現場では、受注・在庫・請求という三つの情報が、それぞれ別の場所で管理されていることが珍しくありません。受注はFAXや電話で入り、在庫は倉庫のExcelで管理し、請求は経理部門の会計ソフトに入力する。情報の流れが人の手を介するたびに、タイムラグとミスが生まれます。

情報が分断されるとき、現場で何が起きるか

中小企業庁の調査によると、中小企業ではFAXや電話を用いた受発注取引が依然として一定数存在しています(1)。受注情報が紙やFAXで届く場合、その内容をシステムに手入力する工程が発生します。ここで起きるのは、単なる入力ミスだけではありません。

入力のタイムラグによって在庫情報が実態とずれ、二重引当や欠品が起きる。請求のタイミングが出荷実績と合わず、月末に突合作業に追われる。こうした問題は、一つひとつは小さく見えても、積み重なると利益を確実に削っていきます。

2025年版中小企業白書では、デジタル化の段階として「紙や口頭による業務が中心」と回答する事業者の割合は減少傾向にあるものの、依然として一定数が存在すると報告されています(2)。取引先との関係性から「FAXをやめたら他社に切り替えられるかもしれない」という懸念が、デジタル化の足かせになっているケースも指摘されています。

外部環境は待ってくれない

経済産業省は2024年11月から「商品情報連携標準検討会」を開催し、製造・卸・小売の各業界を横断する商品情報プラットフォームの構築を進めています(3)。2026年4月からはデータ項目の拡充も予定されており、流通業全体の情報連携の基盤が変わろうとしています。

この動きは、卸売業にとって二つの意味を持ちます。一つは、取引先から求められる情報の精度と即時性が高まること。もう一つは、プラットフォームに接続できる体制がなければ、取引機会そのものを逃すリスクが生まれることです。

中小企業基盤整備機構の調査では、卸売業のDX取組状況について57.9%が「実施していない、今後も予定なし」と回答しています(4)。外部環境が変化するスピードと、現場の対応状況との間に、静かに溝が広がっています。

情報がつながることで変わる景色

受注情報が入った瞬間に在庫が引き当てられ、出荷指示と請求データが自動で連動する。この流れが実現すると、月末の突合作業は大幅に減り、営業担当は在庫確認ではなく提案活動に時間を使えるようになります。

重要なのは、高額なシステムを一気に導入することではありません。受発注のデジタル化から着手し、在庫情報との連携を段階的に広げていくという進め方が現実的です。中小企業庁も、電子受発注への移行によって「作業効率の向上、人的ミスの軽減、取引記録の検索性の向上」が得られると示しています(1)。

情報が分断されている状態は、現場の努力でカバーできているうちは問題が見えにくいものです。けれども、取引先が変わり、業界の基盤が変わるとき、その努力だけでは追いつかなくなる局面が訪れます。三つの情報をつなげる一歩を、どこから踏み出すか。その判断が、これからの卸売業の競争力を左右するのではないでしょうか。

参考・出典
(1)中小企業庁「中小企業の受発注デジタル化」 https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/gijut/digitalization/index.html
(2)中小企業庁「2025年版 中小企業白書 第5節 デジタル化・DX」 https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2025/chusho/b1_1_5.html
(3)経済産業省「商品情報の連携に向けて」(2025年3月) https://www.meti.go.jp/policy/economy/distribution/00004.pdf
(4)中小企業基盤整備機構「中小企業のDX推進に関する調査(2025年)」 https://www.smrj.go.jp/research_case/questionnaire/fbrion0000002pjw-att/202602_DX_point.pdf

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