その賞味期限、誰がどうやって追いかけていますか?

その賞味期限、誰がどうやって追いかけていますか?

食品を扱う現場には、他の業種にはない緊張感があります。棚に並んだ商品の日付を目で確認し、出荷順を手作業で入れ替え、ロットごとの記録を紙の台帳に書き写す。こうした作業を毎日続けている担当者は少なくないでしょう。ところが、その記録がどこまで追跡可能な状態で残っているかと問われると、自信を持って答えられる企業はどれほどあるでしょうか。

食品業界の管理が難しいのは、商品に「時間の制約」がついて回るからです。賞味期限を超えた瞬間に商品価値はゼロになります。環境省の発表によれば、令和5年度の食品ロス発生量は約464万トン、そのうち事業系は約231万トンです(1)。期限管理の甘さや在庫の見える化が追いつかないまま廃棄に至るケースが、この数字の中に相当数含まれています。

記録は残っている、でも「つながって」いない

2021年6月にHACCP(危害要因分析重要管理点)に沿った衛生管理が全食品事業者に義務化されました(2)。小規模事業者であっても、厚生労働省が示す手引書に基づいた記録の作成と保存が求められています。つまり、記録を残すこと自体はすでに制度として組み込まれているわけです。

問題は、その記録が「点」でしか存在していないケースが多いという現実にあります。仕入れの記録、製造工程の温度管理、出荷先の台帳 ー それぞれは存在していても、ロット単位で一気通貫に追跡できる状態にはなっていない。農林水産省の調査では、食品トレーサビリティにおける記録媒体として「様式へ記録し書類として保存」が94%を占める一方、「電子データで保存」は31%にとどまっています(3)。紙の記録が悪いわけではありませんが、何か問題が起きたときに「あのロットはどこから来て、どこに出荷されたか」を即座に答えられるかどうかは、記録の形式によって大きく変わります。

食品ロスは「もったいない」だけの話ではない

食品ロスの削減というと、どうしても社会貢献や環境配慮の文脈で語られがちです。もちろんそれは重要ですが、経営の視点で見れば、食品ロスとは「売れるはずだった利益が消えている」ことにほかなりません。

原材料を仕入れ、加工し、包装し、保管する。すべての工程にコストがかかっています。にもかかわらず、期限切れで廃棄すれば、投じたコストがそのまま損失に変わります。原価管理の精度が低ければ、この損失がどの製品ラインでどの程度発生しているかすら把握できません。

原価率が想定より高い製品がある。原因は原材料費の高騰か、製造工程のロスか、在庫滞留による廃棄か。切り分けて特定できる仕組みがなければ、対策の打ちようがないでしょう。食品製造業のDX導入状況を見ても、売上高100億円以上の企業では54.9%がデジタル技術を活用する一方、10億円から100億円未満では31.8%にとどまります(4)。規模が小さいほど、仕組みの整備が後回しになりやすい構造が見えてきます。

法規制が「きっかけ」になりうる理由

食品業界では、トレーサビリティに関する法制度が段階的に強化されてきました。牛肉トレーサビリティ法、米トレーサビリティ法、水産流通適正化法といった品目別の法律に加え、食品衛生法の改正によるHACCP義務化が全事業者に適用されています(5)。

こうした法規制への対応は、多くの企業にとって「やらなければならないこと」でしょう。しかし見方を変えれば、法対応のために整備する記録の仕組みは、そのまま経営判断の材料になりえます。トレーサビリティのために入出荷記録をデジタル化すれば、在庫の動きがリアルタイムで見えるようになります。HACCP対応で製造工程の記録を電子化すれば、品質管理と原価管理を同じデータ基盤の上で扱えます。

法対応を「コスト」としてだけ捉えるか、「経営の見える化への投資」として捉えるか。その視点の違いが、同じ規模の企業でも数年後の競争力に差をつけることになるのではないでしょうか。

「つながる記録」が現場を変える

食品業界に特有の複雑さ ー 賞味期限、ロット管理、温度管理、トレーサビリティ、原価計算 ー これらは個別に対処しようとすると、それぞれに専用の台帳やシステムが必要になり、情報がサイロ化します。結果として、ひとつの問いに答えるために複数の資料をひっくり返すような作業が日常化してしまいます。

クラウドERPのような統合型システムの意味があるとすれば、この「つながり」を取り戻すことにあります。仕入れから製造、在庫、出荷、請求までが一本の線でつながれば、「あのロットの原価はいくらか」「期限が近い在庫はどこにあるか」「廃棄ロスは売上の何%か」といった問いに、データが即座に答えてくれます。

紙の台帳を電子化する、という話にとどまりません。記録と記録をつなげることで初めて見えてくる経営の実態があります。日々の記録を「義務」から「武器」に変える発想が、これからの食品業に求められている視点ではないでしょうか。

参考・出典
(1)環境省「我が国の食品ロスの発生量の推計値(令和5年度)の公表について」 https://www.env.go.jp/press/press_00002.html
(2)厚生労働省「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/haccp/01_00019.html
(3)農林水産省「トレーサビリティ関係」 https://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/trace/index.html
(4)食品ITnavi「食品業DX事例 ~中小企業でDXを成功させるヒント集~」 https://food.uchida-it.co.jp/info/f20240920/
(5)農林水産省「食品トレーサビリティ」 https://www.maff.go.jp/kinki/syouhi/mn/sinrai/syokuhintoresa.html

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