受注した翌日に、調達が赤字を出すのはなぜですか?

受注した翌日に、調達が赤字を出すのはなぜですか?

受注した翌日に、調達が赤字を出すのはなぜですか?

月曜の朝一番に、「取れました」という営業担当の声が響きました。大口の受注です。でも、その報告が届いた瞬間に、調達担当が手元の資材単価表を確認し始めました。「今の仕入れコストで、この価格は成立しますか?」 ー 誰もその場で答えられませんでした。

こういうことが、中小企業の現場では珍しくありません。営業は「売れる値段」を考え、調達は「買える値段」を考えています。でも、その二つが同じ情報を見ながら動いていることは、まだ多くはないのが実情です。

情報が繋がっていないとはどういうことか

売る側と買う側の温度差は、昔からあります。でも、情報システムが整っていない環境では、その温度差が「見えないコスト」として蓄積されていきます。

営業担当が受注した時点で、在庫がどれだけあるか、資材の調達コストが今月どう動いているか、仕入先との交渉余地がどの程度あるか ー これらを瞬時に確認できる環境がなければ、「売れた」という喜びの裏側で、コスト計算が後追いになります。

中小企業庁が公表した2025年版中小企業白書では、顧客データの一元管理や受発注管理のオンライン化が、中小企業のデジタル化における「次の一手」として有効であることが示されています(1)。逆に言えば、多くの中小企業がまだここに手をつけられていない、ということでもあります。問題を認識していても、どこから手をつければいいかわからない、あるいは目の前の業務に追われて後回しになっている ー そういう声を、現場でよく聞きます。

在庫の「見えない損失」

調達と在庫が繋がっていないと、二つの損が生まれます。一つは「過剰発注」、もう一つは「欠品による機会損失」です。

「念のため多めに発注しておこう」という判断は、現場のベテランが担っていることが多い。でも、そのベテランが休んだ日に誰かが同じ資材を別で発注していたら ー 気づいた時には、倉庫に使い切れない在庫が積み上がっています。資金は寝てしまい、スペースは圧迫される。ただ、誰も意図的にそうしたわけではない。情報が分断されていれば、善意の行動が二重発注を生みます。

逆のケースもあります。受注が来たのに在庫がなく、緊急調達で通常より高い単価を払う。見積もりより利益が薄くなって初めて「あの受注、取らない方が良かった」という話になります。こうした問題の根は一つで、「今、どこに何があって、いくらで買えるのか」という情報が、部門をまたいで共有されていないことにあります。

2026年1月施行の取適法が問う「記録する力」

2026年1月1日から、従来の下請法が「中小受託取引適正化法(取適法)」として全面的に刷新されました(2)。大きな変化の一つが、代金決定の在り方です。発注側が「協議に応じない一方的な代金決定」を行うことが禁止され、手形払も廃止されました。

中小企業にとってこの改正は、二つの意味を持ちます。発注側であれば、協議のプロセスと代金根拠をきちんと記録しておく必要があります。受注側であれば、不当に低い単価を押し付けられた場合に申し出る正当な根拠が得られた、ということでもあります。

いずれにしても、これからの調達管理は「交渉の記録」と「価格根拠の保存」が欠かせなくなります。それを紙やメールで管理し続けることには、実務上の限界があります。どの仕入先と、いつ、どういう根拠で合意したか ー その履歴を体系的に残せる環境が、調達部門には必要になってきています。

情報が繋がると、何が変わるのか

経産省が公表したDX推進の手引き2025には、デジタルツールを活用することで、在庫管理・顧客対応・受発注管理が連携し、人手不足の現場でも的確な判断が可能になると記されています(3)。

ここで言う「繋がる」というのは、大規模なシステム投資を意味しません。営業の案件情報と、調達の単価情報と、倉庫の在庫情報が、同じ画面の中で確認できる状態になる ー ただそれだけのことです。

でも、その「ただそれだけ」が実現できると、変わることがあります。営業が見積もりを出す前に「この価格では利益が出ない」とわかる。調達担当が「来月この資材が高騰するかもしれない」という情報を営業に先に伝えられる。在庫担当が「先週の受注分はすでに引き当て済みです」とリアルタイムで答えられる。

売る側と買う側が、同じ情報を見ながら動けるようになる。それが、情報連携の本質だと考えます。「受注できたのに、なぜ損をするのか」という疑問を持ち始めた時が、仕組みを変えるタイミングです。情報が繋がっていないことで生じる損失は、件数や金額が見えにくい分だけじわじわと積み上がります。まずは、営業と調達と在庫の担当者が同じデータを見て話せる環境から始めてみてください。


参考・出典

(1)中小企業庁「2025年版中小企業白書 第5節 デジタル化・DX」https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2025/chusho/b1_1_5.html
(2)政府広報オンライン「2026年1月から下請法が『取適法』に!委託取引のルールが大きく変わります」https://www.gov-online.go.jp/article/202511/entry-9983.html
(3)経済産業省「中堅・中小企業等向けDX推進の手引き2025」https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/investment/dx-chukenchushotebiki/dx-chukenchushotebiki_2025.pdf

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